コロナ禍でのオンライン学会

コロナ禍でのオンライン学会

2020年から世界的な新型コロナウイルスの影響で様々なイベントが延期や中止になりました。私も今年(2021年)、自身の携わっている仕事の成果がある程度まとまったので、科学系の国際学会に参加することになりました。本来はアメリカで開催される予定だったのですが、急遽オンライン開催に変更され、私の初めてのアメリカ進出の夢も無に帰してしまいました。

しかし、オンラインで開催されたことでの利点もいくつかありました。今回は、オンライン学会での口頭発表までに準備したことと、オンライン学会でのメリット・デメリットを紹介していきます。

オンライン学会における発表までの流れ

学会ホームページでの参加登録

一番最初にしたことは、学会ホームページでの参加登録です。ホームページのフォームに従って、プロフィールや最終学歴、所属、口頭発表かポスター発表かなどを登録していきました。また参加費は会場準備などの費用が掛からないためか、いつもの半額程度でした。(参加費用は会社から支給されるのであまり関係ないですが。)

アブストラクト(予稿集)の提出

その次に、発表内容を大体200単語程度の英文に要約し、ウェブから提出しました。この時点では学会開催日のおよそ半年前でした。まだ更新する可能性のあるデータもあったため、あまり詳細な値は記入せずにざっくりとした内容を記入しました。このアブストラクトは学会開催の2~3か月前くらいにホームページ上に表示され、誰がどんな発表をするのかが公表されました。

プロシーディング(予定原稿)の提出

私が参加した国際学会では、A4サイズで6枚以上のプロシーディング論文(予定原稿)の提出が必須でした。この時点で、何のデータを使用するかを決め、グラフの体裁を整えたりして執筆を始めました。要した期間はおよそ2~3週間でした。その間は他の業務は一部放棄して、プロシーディングの執筆に集中していました。英語での論文作成が初めてだったのでそれなりに苦労しましたが、同じ分野の他の論文から参考になる表現をいろいろ拝借させていただきながら、なんとか書き上げることができました。(※参考にした文章の完全コピペではなく、あくまでフレーズを流用させてもらっただけです。)そのあと上司にチェックをもらって、指摘を受けた箇所を修正したりして、開催日の約1か月前くらいにWebで提出しました。

発表スライドの作成と録音

プロシーディングの執筆と並行して、PowerPointで発表スライドを作成していきました。枚数は約20枚程度です。使用したデータのグラフは、プロシーディング掲載時と発表スライド掲載時ではフォントやサイズが変わるので、その辺の調整を行うのが二度手間に感じました。また、発表の構成やスライドのデザインや見栄えなど、いろいろ気にする点があり、細かい点を気にしだすと永遠に修正が繰り返される負のループに陥りそうになりました。とりあえず、8割ぐらい完成したら、一旦上司や教授などにチェックしてもらって、修正箇所の指摘を受けてから完成版を作成するのがいいと思います。でないと、100%完成したつもりで持っていっても、他の人のチェックを受けると自分では気づかなかった修正点がたくさん出てくるので。

そして、ここが一般的な現地開催の学会とオンライン学会で違う点ですが、私が発表した国際学会では発表スライドを録音して、その音声とスライドが含まれる動画データをウェブ上にアップロードして投稿しました。PowerPointに録音機能がついているので、私はそれを利用しました。現地開催の場合と違って失敗しても何度でもやり直せるので、わりと気楽にできたと思います。発表資料のアップロードが完了したのも学会開催日の1か月程度前でした。

オンライン学会開催

そしていよいよオンライン学会の開催日となりました。

Plenary講演や一部のイベントはLiveで世界中に同時配信されましたが、それ以外のほとんどの発表は先ほど述べたように動画データがアップされていたので、聞きたい講演を自由に聞くことができました。また動画がアップロードされている期間も例年の倍程度に設定されていたため、余裕をもって聞きたい講演を選ぶことができたと思います。ちなみに私の発表はアブストラクトを早めに提出したおかげか、そのセッションの一番初めに設定されていたため割と多くの人の目に留まったのではないかと思います。

質疑応答に関しては、Slackというチャットアプリを使用して行われました。アカウント登録をすると、各セッションごとのチャンネルに参加者が自由に質問回答をすることができます。ただし見た感じでは参加者がかなり少なく、あまり活用できているとは言えませんでした。

オンラインのディスカッションイベント

学会の開催期間中に、発表者とそれ以外の聴講者が自由に参加できるZoomでのディスカッションイベントが開催され、私もそれに参加しました。これはLive開催で1時間程度の時間が設けられていました。講演発表者に対して参加者が自由に質問していき、それに答えていくという形式でした。英語が苦手な私には、これが一番の難所でした。しどろもどろになりながら、なんとか1時間を耐えきりました。Slackによるチャットでの質疑応答があまり活発に行われていなかった分、このディスカッションイベントでは各先生方からさまざまな質問を浴びせられて非常に大変な思いでした。

オンライン学会を終えて

私にとっては今回が最初の国際学会デビューだったわけですが、それがまさかのコロナ禍によるオンライン学会となってしまいました。正直アメリカに行っていろいろ楽しみたかったのですが、それができなかったのは残念です。ただ、先ほど説明したディスカッションイベントではさまざまな先生方と知り合うことができたので、多少なりとも名を売ることはできたのかなと思います。

オンライン学会のメリット・デメリット

さて、オンライン学会を実際に体験してみて私が感じた、オンライン学会のメリット・デメリットを以下で述べていきたいと思います。

オンライン学会のメリット

飛行機やホテルの手配が不要

まずメリットとして挙げられるのが、パスポートやVisaの取得、飛行機の手配やホテルの予約など、海外に行くためのさまざまな事前準備がオンライン学会では一切不要ということです。海外に行くこと自体は非常に楽しいのですが、そのための前段階でのやるべきことが本当に多くて嫌になってしまいますよね。オンライン学会の場合には、ホームページ上での参加登録だけしておけば、それ以外の手配は全くいらないので、参加すること自体への心理的なハードルは下がるのかなと思います。

発表のやり直しが可能

また現地開催の学会の場合には、発表原稿を丸暗記して、広い会場の中で多くの聴講者の目の前で、緊張度マックスの状態で制限時間以内に発表を遂げるという、非常に過酷な試練が待ち構えています。一方オンライン学会の場合には、職場や研究室で自分一人の環境で、事前に準備した発表原稿を堂々と読みながら、間違えた場合には何度でもやり直して発表の録音を行えるので、プレッシャーはほとんどありません。私の場合も、満足いくまで10回以上はやり直したと思います。(※PowerPointの場合には、途中のスライドから録音のやり直しができるので、わざわざ初めから取り直す必要はありません。)

興味ある講演を絞って聴講できる

現地開催の場合にはセッションの途中に聞きたい講演があった場合に、それ以前の講演がすべて終わるのをじっと我慢して聞いていなければなりません。正直、自分の研究分野以外の発表は聞いてもチンプンカンプンなものが多く、退屈であくびがでてしまうこともあります。それがオンライン学会で、かつ今回のように各講演者の発表動画を自由に聴講できる形式であれば、自分が興味ない発表に時間を割く必要がありません。それに、現地開催だと同じ時間帯に他のセッションで自分が見たい講演がかぶっているということが多々あるのですが、オンライン学会の場合には気になる講演は時間帯を気にせず好きに聴講することも可能です。なので効率的に興味ある発表のみを選択することができるのです。

オンライン学会のデメリット

他の研究者と出会う機会がない

学会に参加する一番の目的は、自分の研究内容を多くの人に知ってもらい、成果の素晴らしさを世にアピールすることですが、それと同じくらい重要なのが、研究者同士のネットワークを築いていくことです。私は会社でR&Dの仕事をしていますが、研究者たるもの一人だけで研究を進めていくといずれ行き詰ってしまいます。なので、自分と同じ業界の他の研究者や先生方とたくさんのつながりを持ち、相談や協力を仰ぐことが必要だと思います。また、論文や学会発表を通じて、自分が属する業界で自分の名前を有名にしていくことも重要な仕事の一つです。現地開催の学会であれば、講演の前後で様々な方と直接お会いしたり、夜お酒を飲みに行くなどして業界のコミュニティに参加することができますが、オンライン学会の場合には他の研究者と直接会える機会がありません。一部、先に述べたZoomミーティングなどのようにオンライン上で顔を合わせることはできますが、直接会って会話することには敵わないと思います。

オンラインディスカッションがハード

私が参加した国際学会では、オンラインのディスカッションイベントという名目でZoom上での質疑応答がありました。現地開催の学会であれば発表後の2~3個の質問に耐えればいいですが、オンラインのディスカッションイベントではそれよりもはるかに多い質問に答えなければなりませんでした。英語が苦手な私にとっては非常に厳しいものでした。しかし、そこで初めて他の研究者の方と顔を合わせ繋がりを持つことができましたし、また、自分の発表に関するリプライをいただけようやく自分の成果の手ごたえを知ることができたので、そういう意味では非常にいい経験だったと思います。

まとめ

今回、私の国際学会デビューがまさかのオンライン開催になってしまい、いろいろとわからないところや不安なところはありました。しかし終わった後は、とりあえず学会を乗り切ったという達成感を感じましたし、いい経験になったと思います。ただ、次に学会に参加するときは、やっぱり海外に行っていろいろ楽しみたいと思いました。早くこの新型コロナウイルスの感染が収束し、自由に国同士を行き来できる状況が戻ってくることを願っています。