【おすすめ教科書紹介】『伝送線路論 電磁界解析への入門』著:出口博之 数理工学社

概要
『伝送線路論 電磁界解析への入門』著:出口博之 数理工学社
高周波回路を取り扱う上で必要不可欠な伝送線路に関する知識を、数式を用いて丁寧に解説してくれています。通信や高周波回路素子を取り扱う大学生や技術者の方にお勧めの教科書です。
おすすめ度:★★★★☆

目次
第1章 伝送線路とは
1.1 無限導体板上の単一導体線
1.2 電気力線
1.3 静電容量,インダクタンス
1章の演習問題
第2章 伝送線路の分布定数回路解析
2.1 無損失伝送線路
2.2 正弦波信号の伝送特性
2.3 損失のある伝送線路
2.4 電圧,電流の行列表示
2章の演習問題
第3章 伝送線路の電磁界解析
3.1 伝送波の基本特性
3.2 TEM波
3.3 TE波,TM波
3.4 電磁波回路の電圧,電流
3章の演習問題
第4章 散乱パラメータ
4.1 散乱行列
4.2 縦続接続
4.3 シグナルフローグラフ
4章の演習問題
第5章 インピーダンス整合
5.1 整合条件
5.2 図表による整合
5.3 整合変成器
5章の演習問題
第6章 周期構造の伝送線路
6.1 ブロッホ波
6.2 反復パラメータ
6章の演習問題
第7章 伝送線路のグリーン関数
7.1 分布電流源のある分布定数回路
7.2 グリーン関数の例
7章の演習問題
参考文献
索引
感想
私も業務上、高周波回路を扱っているためその勉強のために本書を購入しました。本書を読み進める上で、学部レベルの電磁気学、行列、ベクトル解析の前提知識があると大きな問題なく読めると思います。
特に本書の式変形は非常に丁寧で行間が少なくなっているので、基本的には計算で躓くことはないかと思います。それぞれの式の導出に関しても基本となるMaxwell方程式から導いてくれるため、天下り的に数式が登場することが少ないのもありがたいです。
第一章では同軸ケーブルや並行導線のインダクタンスの導出などが載っています。
第二章は特に重要な伝送線路に関する取扱いをおこないます。本書のなかでもこの章が最もページ数がさかれており、伝送線路論を学ぶ上で基本的かつよく理解しておくべき項目であることが伺えます。
ここで伝送線路について簡単に解説しておきます。直列回路の場合には回路図を描くときに導線と、それに接続された抵抗やコンデンサ、コイル等の素子を考え、それぞれの素子を通過するときにのみ電圧の変化が生じるという考え方でした。一方、高周波の場合には導線の長さに対して高周波の波長が短くなり、導線内部でも電圧変動が生じます。そこで線路の微小区間におけるインダクタンスやキャパシタンスを考慮し、キルヒホッフの法則を用いて電圧・電流に対する微分方程式を導出します。これを解くことで線路自体での電圧変動を考慮して高周波回路の問題を解いていきます。線路内部の微小区間にインダクタンスやキャパシタンスが分布しているので、これを分布定数回路といいます。
この分布定数回路に関する取扱いも本書では丁寧な式変形で導出されており、非常にわかりやすいです。それに加え、伝送線路の特性インピーダンスや、伝送線路の端がオープン、ショート、異なるインピーダンスが接続された場合などについて、線路上の任意の位置における電圧、電流、入力インピーダンスの導出などを行っています。
第三章では伝送線路内の電磁界モードについて解説しています。並行線路や同軸ケーブル内では高周波信号はTE波、TM波、TEM波などの電磁界のモードで伝搬しています。それらのモード関数についてMaxwell方程式から導出していきます。この章ではベクトル解析の知識が必要になってきます。
第四章では回路の特性を表すために重要な指標である散乱行列(Sパラメータ)について解説しています。Sパラメータとは素子の反射特性、通過特性を示す指標で、高周波の実験ではよく用いられます。本章では2端子対回路に集中定数素子が接続された場合のSパラメータの導出等を行っています。
第五章ではインピーダンス整合のお話になります。スミスチャートと呼ばれる図表を用いて集中定数素子でインピーダンス整合させる方法について解説していますが、スミスチャート自体についての説明が少ないため、それの見方に関しては他の書籍等で勉強する必要があります。この部分は個人的に少し残念に感じましたが、ページ数の都合上しかたないのかもしれません。
第六章周期構造の伝送線路、第七章伝送線路のグリーン関数についてはまだ読み切れていないのですが、これらの章も計算は丁寧に書かれているため、独学でも勉強しやすそうに感じました。特にグリーン関数を用いた解析は電磁気学や量子力学では頻出ですが、伝送線路論でも登場することに多少驚きました。少し発展的な内容ではありそうですが、非常に面白そうなテーマだと思います。
総評として、冒頭にも述べた通り本書は数式を用いて丁寧に伝送線路論が解説された良書になります。式変形の行間も少ないので、独学で勉強可能だと思います。これから高周波の実験をおこなう学生や技術者の方が一から勉強するのにちょうどいい教科書だと思いました。
-
前の記事
エクセルVBAで一括スムージング処理【散布図グラフ】 2021.05.06
-
次の記事
記事がありません